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「かぐや姫の物語」〜 姫の犯した罪と罰

面白かったです。前半は田舎ですくすくと成長していく「たけのこ」がとにかく愛らしい。ところが、途中で一家が都に移り住んでからだんだんゾクゾクした感じになってくるんですよ。もうね、「かぐや姫」の人生が儘ならないことだらけ。そこには月のかぐや姫に対する冷酷無情な戦略があったとしか思えません。

何を大げさなとおっしゃる方もおられるでしょうが、でもそう思うんです。月が田舎の翁の元へ彼女を送り込んだのは、貧乏でひもじい思いをさせるためだったんじゃないでしょうか。その後に衣や黄金を翁に送りつけたのは、一家が都へ引っ越すように誘導するためだったんじゃないでしょうか。彼女が都での生活を窮屈に思うことは作戦通りだったんじゃないでしょうか。

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都では彼女への求婚が殺到。彼女は何とか断わり続けますが、それが逆に評判となり大納言や中納言といった位の者たちから求婚される羽目になります。彼女はどうしてもそれを受けたくない。土壇場で機転を利かして先延ばしに成功しますが、それが求婚者たちの散財、果ては命をも奪うことになってしまい、逆に自分を激しく責めることになってしまいます。

楽しかった田舎を模した庭を作ろうが、美しい桜を愛でようが、それは現実逃避にしかならないとわかり、ますます気持ちが鬱ぎ込むかぐや姫。そこへ今度は帝からの求婚です。無理やり抱きすくめられて驚愕し、思わず月に助けを求めてしまいます。

月は待ってましたとばかり、今月十五日に迎えにいくと返事をしてきます。彼女はしまったと後悔します。これまで育まれてきた媼と翁との絆もそうなると消えてしまうからです。二人と別れたくない。それを月は冷酷無情に断ち切るわけです。残された媼も翁も悲しみにくれるに決まっています。まさに月のかぐや姫に対する仕打ちの総仕上げと言えそうです。

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何故かぐや姫は、地球でこのような人生を歩むことになったのか。わがままで頑だったからでしょうか。それとも周りの人間たちが愚かだったからでしょうか。もし一つでも妥協して、その中でささやかな幸せを見つけて暮らしていたらこんなことまでにはならなかったでしょうか。いや、それでも月は彼女から生きてる実感を根刮ぎ奪い取っていったに違いありません。

なぜなら、それがかぐや姫の受けるべき罰だったと思うからです。

彼女がどうしてそんな罰を受けることになったのかは想像するしかありません。思うに月の世界は清浄で悩みや穢れのないところなんでしょう。一方、自由奔放な性格の彼女は、愚かな生き物たちがガヤガヤとやってる地球の生活に興味を持ったのかもしれません。そういうのって、月の世界では許されないことなんじゃないでしょうか。だって地球の生き物たちは穢れていますもの。蜘蛛を蛙がパクリとやるように殺生しないと生きてゆけないんですから。盗んだ瓜を口にしてもやっぱり美味しいと感じるんですから。

そこで月は考えたんだと思います。このまま彼女を月に置いておくわけにはいかない。一度、望みどおり地球にやって、酷い目に会ったり嫌な思いをすれば、自分から帰ってくるだろうと。月はかぐや姫に約束させたに違いありません。

「お前の望みどおり地球に行かせるが、一度でも月に帰りたいと思ったら、そのときはすぐにお前を連れ戻して記憶を消し、二度と地球へは行けないと心得よ。」とかね。

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果たして、かぐや姫は月に連れ戻されてしまいます。月の思惑通りの結末です。悲しい「かぐや姫の物語」です。愚かな私たちは、かぐや姫を失ったんです。これって、ものすごく教訓めいていると思えます。

私たちの世界は、期待に胸を膨らませてやってきた若い世代の芽を摘んでしまう世界なんでしょうか。私たちの世界では「生きてる実感」って、野山で自然と触れ合って生きる以外に感じられないのでしょうか。映画を見終わったとき、かぐや姫の哀れとともにこんな思いが湧き上がってきました。私の悪いくせです(笑)。

フラフラと映画館を出た私は、ちょっと歩くことにします。すれ違う家族連れや恋人同士は笑顔が多くて、けっこう楽しそうです。買い物してるおばちゃん連中はペチャクチャとうるさいくらいです。足早に通り過ぎるサラリーマンはしっかり前を向いています。

よし、私たちの住んでる世界は、そんなに悪くないぞ。そのまま歩いて公園に出て、どうだとばかりに空を見上げてみると、あれっ月の姿がありません。う~ん、何だか拍子抜け・・・(笑)。ということで、今度、月を見上げたときにどんな感じになるのか、ちょっと楽しみにしています。

かぐや姫の物語」、おすすめの1本です。

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