もしかしたら糸魚川養子は「氷菓」に隠された意味も知ってたんじゃないかなあ。折木はそれを自ら解き明かしました。でも関谷純が託した本当の意味を解き明かしたのは、千反田さんだったと思うのです。
司書室の会話は面白かったです。糸魚川養子は気が重そうでした。すでに自分の中で折合いをつけたはずの過去を、再び当事者として蒸し返されるかもしれないわけですからね。
「この上、何を私に聞くことがあるのかしら?」
ここまでの彼女はこれ以上真相を話すつもりはなかったんでしょう。でも折木に核心をつかれて、さらに口を開きました。別に知らないと答えることだってできたはずです。折木の問いに答えることは、彼女自身が関谷純を犠牲にした人たちの一人であることを告白することになるんですから。
それをあえて話す気になった理由は何でしょう。よく言えば、関谷純のメッセージを古典部の後輩たちに伝えるべきと思い直したのかもしれないし、悪く言えば、折木に追及されて自白されられるよりは、大人らしく自分から語ろうと思ったのかもしれません。彼女には気の毒だけど、私には後者だと思えます。
「もう、答えはわかったでしょ・・」
彼女は、自分の口から「関谷純は望んで英雄になったんじゃなかった。」とは言いませんでした。そして彼女が関谷純のために精一杯できたことは、古典部では「関谷祭(かんやさい)」を禁句にすることぐらいだったようです。彼女も強い人間ではなかったんですよね。
もしかしたら彼女は「氷菓」に隠された意味も知っていたのかもしれません。でも言えなかった。それを彼女が解説するのは、余に酷な話です。だって彼女は関谷純の心中を知りながらも、最後まで声をあげられなかったんですから。
結局、折木は自分で「氷菓」に隠された意味を解き明かします。そして、そのメッセージは本当に誰も受け取れなかったのかと心の中でつぶやきます。折木は「 I scream 」を恨みのこもった叫びと感じたようでした。
ところが、それを見て千反田さんが思い出すんです。大事な一言でした。
「強くなれ」
これをどう受け取るかは人それぞれかもしれません。関谷純が裏切られたという恨みを気持ちを全く持っていなかったわけでもないでしょう。それでも私は前向きなメッセージだと感じました。
受け継がれていってほしいと願う文集に、恨みを込めた名前をつける部長なんていないですよね。千反田さんが思い出したことで、「 I scream 」には前向きな意味が加わりました。それは、古典部の後輩たちへの期待と励ましを込めた名前なんですよ。関谷純はそういう人だったと思うのです。
これで糸魚川養子の胸中も救われたんじゃないかなあ。きっと古典部の後輩たちに話をしてよかったと思えたはずです。そして折木も何かを掴んだみたいです。彼は「優しき英雄事件〜四十五年前の隠された真相」という特集を執筆するようですが、いったいどんな記事になるんでしょうね。
次回も本当に楽しみです。