神様のメモ帳 9話 感想
サブタイトルの元ネタは「江夏の21球」。山際淳司のノンフィクション「スローカーブを、もう一球」の中に収められている短編の題名ですね。1979年プロ野球日本シリーズ第7戦、ピッチャーの江夏が9回裏ノーアウト満塁のピンチを背負い、それを切り抜けるまでに投じた21球が描かれています。けっして煽ることのない淡々とした情景表現がすばらしいので、興味がある方にはぜひオススメしたい一冊です。
ところで江夏といえば、少し前の野球ファンなら知らない人はいない名投手です。彼はオールスターゲームで9者連続奪三振という記録を作っていますが、こんな漫画のみたいなことを実際にやって見せてくれる投手はそういません。ただプロ野球選手としての彼の生き様は泥臭くて、輝かしい記録を打ち立てつつも選手人生の後半は球団を渡り歩き、最後は大選手であったにもかかわらず引退試合もなかったような記憶があります。
今回のお話に出てきたヤクザ(ネモト)は、高校野球で甲子園の準決勝まで勝ち進んだエースピッチャーだったんですね。サブタイトルが「あの夏の二十一球」とくれば、江夏とダブらないわけがありません。
ネモトは不慮の事件に巻き込まれて高校を自主退学し、彼の野球人生は断たれたのですね。彼の歩んだ足跡は消し去られ、誰も覚えている者はいない。でも彼には彼自身の21球があった。それはかけがえのないものだったのでしょう。だからこそ彼はそのとおりに投げた。
一方、ネモトの過去を知った鳴海はゲームの中に彼の配球データがあると確信します。そこがこのアニメの鳴海らしいところだし、ネモトもそんなことがあってもおかしくない人間味あふれる人物に描いてありました。そしてデータは本当に登録されていたわけでした。
最後の鳴海の話を、ネモトは信じてはいないでしょう。でも、そういうことがあってもいいかなとは思ったんじゃないでしょうか。「けど負けは負け、家賃は据え置きや。」と言って去るネモト。あの時の彼自身の21球目は、ウイニングショットだったのか、それとも涙の一球だったのでしょうか。
次回も楽しみです。