今年の10選は以下のとおりです。
『アサルトリリィ』第5話「ヒスイカズラ」
『映像研には手を出すな!』第8話「大芝浜祭」
『かぐや様は告らせたい?』第6話「伊井野ミコを笑わせない 他」
『GREAT PRETENDER』第10話「CASE2_5:Singapore Sky」
『ゴールデンカムイ』第32話「人斬り」
『球詠』第12話「悔いなく投げよう」
『ドロヘドロ』第7話「オールスター⭐︎夢の球宴」
『22/7』第7話「ハッピー⭐︎ジェット⭐︎コースター」
『波よ聞いてくれ』第12話「あなたに届けたい」
『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第6話「笑顔のカタチ」
ルール
・2020年1月1日〜12月31日に放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品から選べるのは1話のみ。
・順位はつけない。
<各話コメント>
『アサルトリリィ』
第5話「ヒスイカズラ」
監督・脚本/佐伯昭志 シリーズ構成/佐伯昭志、東冨耶子 絵コンテ・演出/長原圭太 作画監督/高野晃久、佐藤隼也、秋葉徹 総作画監督/崎本さゆり、常盤健太郎
Aパートの3分ほどのシーン。とても気に入っています。梨璃の誕生日に贈るラムネを探しに朝早くから甲州へ出かける夢結。電車を乗り継ぎ、日傘をさして葡萄畑の道を抜け、住宅地の一角にあるお店に立ち寄ります。
透き通った瓶、弾ける炭酸、カラコロと鳴るガラス玉、警戒区域表示、薄暗い店の奥にいる主人との会話、梨璃と一緒の姿が心に浮かんで「もう一本いただけますか?」と少し昂ってしまう口調。そんな佇まいに思わず魅入ってしまいました。
直後のBパートでは一転、夢結のそれでいいのかと思える人のよさ、自分の感情の扱いに戸惑う初々しさ。彼女には悪いけれど少し笑ってしまいます。力が入りすぎちゃうハグって、不慣れな人のあるあるかも(笑)。
『映像研には手を出すな!』
第8話 「大芝浜祭」
監督・シリーズ構成/湯浅政明 副監督/本橋茉里、山城風我 脚本/城戸雄一郎 絵コンテ・演出/長屋誠志郎 作画監督/木下絵李、河本零王、寺尾憲治
この作品に惹かれるのは、モノづくりの情熱が伝わってくるからだなあ。予算と期限に苦しみながら、自分の睡眠時間を削って徹夜する、時には人の持ち時間を奪い取ってでもやる。最近はコスパだ、効率だと声高に言う人が増えてきて、それは正しいけれど、根幹にはそれを吹き飛ばすくらいの情熱があるべきと思っています。
水橋氏は渾身のアニメーションを描き上げ、両親がそれを観て、娘を表現者として認めるくだりが印象的です。「どうだった?」と娘に聞かれ、「頑張ったね」なんてことは言わない。きちんとアニメーションに対する批評をして、「いい演技だった」と賛辞を贈る。個人的にハッとさせられたシーンでした。
『かぐや様は告らせたい?』
第6話「伊井野ミコを笑わせない 他」
監督/畠山守 脚本/中西やすひろ 絵コンテ/畠山守 演出/仁科邦康 作画監督/斉藤準一、石川洋一、Park as-lee 総作画監督/矢向宏志
サブタイが「伊井野ミコを笑わせない」となっていて、彼女自身が笑うことをさせないっていう意地悪な意味かと思っていたら、彼女のことを周囲の者に笑わせないって意味だったんですね。信念を持って頑張っている人を笑い者にさせない。白銀御行がカッコよかったです。
白銀が自滅しかかっていたミコちゃんに手を差し伸べる行動に出たのは、かぐやたち仲間への信頼があってこそでしたが、逆にそれが仲間を不安にさせてしまう展開もうまい。かぐやのヒステリックな落ち込みっぷりがちょっと可哀想だったけど面白くって、やはりどんなに信頼関係があっても、適切な相互確認が不可欠なんだなと思ったのでした(笑)。
『GREAT PRETENDER』
第10話「CASE2_5:Singapore Sky」
監督/鏑木ひろ 副監督/益山亮司 脚本・シリーズ構成/古沢良太 絵コンテ/益山亮司 演出/桜美かつし 作画監督/野崎あつこ、神谷美也子 総作画監督/浅野恭司
エアレースのシーンが素晴らしい。シンガポールのマリーナ地区をレース会場にしちゃうという自由な発想、バックに流れる組曲『動物の謝肉祭(終曲)』が縦横無尽に飛び回る飛行機の動きにピッタリで、それぞれの思惑や願いを持つ登場人物たちのフィナーレとも重なって、とてもセンスのある選曲だなと唸らされます。
ホテルの高層階の窓からアビーとエダマメが飛び降りるシーン(ちょっとルパンっぽい感じ)も好きです。無事に着水した二人のやりとりがいい。「面白かっただか?」「あぁ」「ならよかっただ…」、誰かを赦すことは、自分を縛り付けているわだかまりから解放されることでもあります。ラストのアビーの笑顔は最高に晴れやかだったなあ。
『ゴールデンカムイ』
第32話「人斬り」
監督/難波日登志 助監督/川越崇弘 シリーズ構成/高木登 脚本/谷村大四郎 絵コンテ/安藤真裕 演出/鳥羽聡 作画監督/徳田賢朗
かつて人斬り用一郎の異名をとったヨボヨボの老人。復讐者の刃を見て覚醒すると一転して凍りつくような迫力を漂わし始めます。「列に並べ…この人斬り用一郎を殺したい奴なんぞ、たくさんいる…」脳裏を去来する幕末の幻影は死ぬ時を悟った走馬灯だったのかもしれません。只々圧巻シーンの連続に見入ってしまいました。
エトピリカ舞う根室車石での用一郎の最期は、屈指の名シーンだと思います。そして、二人の声優の演技に痺れました。死に際を求める人斬り用一郎(CV.清川元夢)とそれを感じ取っていた土方歳三(CV.中田譲治)。この老練な演技があってこそ、複雑な感情が入り混じった味わい深さが生まれたのではないでしょうか。
『球詠』
第12話「悔いなく投げよう」
監督/福島利規 シリーズ構成/待田堂子 脚本/待田堂子 絵コンテ/いわたかずや、福島利規 演出/福島利規 作画監督/藤田正幸、園田高明、千葉孝幸、山名秀和、大河原晴男、菅原早也花、津熊健徳、石井和彦、佐々木一浩、松尾真
第10話から始まった梁幽館戦は面白くて、毎週楽しみしていました。特にこの最終話は、サブタイが「悔いなく投げよう」となっていて勝敗の行方に予想がつかず、新越谷が強豪校の梁幽館にあと一歩及ばずとなるのか、はたまたジャイアントキリングを果たすのか、ハラハラ、ドキドキさせられて、純粋にアニメを見るのが楽しかった!!
この作品、野球の描写がなかなか秀逸で、選手の気持ちだけでなく、戦術やプレーの意図を視聴者に示しながら見せてくれるのがすごくよかったと思います。そして、そうした各話の積み上げが、この試合の二つの見せ場となる、希ちゃんの逆転スリーラン、球詠バッテリーと強打者中田との真っ向勝負にしっかりと収斂していっており、本当に素晴らしかったです。
監督・絵コンテ/林祐一郎 シリーズ構成・脚本/瀬尾浩司 演出/小松寛子 作画監督/小松寛子、吉田駒未、山崎杏理
そもそもこの作品で野球の試合ができるのか。「メンバーが一人足りねーんだよ」とか言ってますが、すでにメンバーとして死体や虫が入ってる時点でおかしいです。試合の方は、睡眠薬入りドリンクだの、虫退治にバ○サ○焚いたりだの、結局は爆笑コント劇場に。最後は藤田のビーンボールをニカイドウが打ち返し、打球を受けた院長がKOされてノーゲーム。ま、こうなるよなー(笑)。
ところで試合の間、煙の周囲でも騒動が勃発。あっちこっちで血飛沫が飛び散る大惨事。能井にかけられた魔法を解くため、鳥太から能井が一番大事な人の臓物が必要と言われ、心は成り行きで自分の臓物を差し出しましたが、その後に能井とラブコメ寸劇をやらされる羽目になるとは思ってもなかったろうなあ(笑)。
いやー面白かったです。なんだかんだでこのお話では主要メンバーが大集合してましたよね。オールスターってそういうことだったのか(笑)。
『22/7』
第7話「ハッピー⭐︎ジェット⭐︎コースター」
監督/阿保孝雄 助監督/高橋さつき シリーズ構成/宮島礼吏、永井千晶 脚本/大西雄仁 絵コンテ/森大貴 演出/森大貴 作画監督/三井麻未、田川裕子、川村幸祐、木藤貴之、りお、凌空凛、飯野雄大 総作画監督/まじろ
『22/7』の中でもジュンちゃんの当番回は珠玉の逸品。ストーリー、映像、劇伴、小物に至るまで、とても丁寧に作り込まれていたと思います。映像面の演出が際立ってた印象がありますが、私はお話の構成もとても気に入っています。
今日一日、メンバー全員分の仕事を一人でやり切ることになってしまったジュンちゃん。自分を奮い立たせるために手にしたのはハートの手紙。秘められた思いが、回想シーンを通して少しずつ明かされていきます。
ずっと病弱だった過去。入院中にできた友達との思い出。渡すことができなかったハートの手紙。友達の命をもらったように思えた病気の完治。そして、どんな時も楽しく生きていこうと誓った彼女に舞い込んできたのは、22/7プロジェクトメンバー選出の通知でした。
何とか今日一日の仕事をやり切って、ヘトヘトになって見つめるハートの手紙。そこにエレベーターの扉が開く。目に入ってきたのは仲間の姿。回想ではない彼女の今。仲間から「大変だったでしょう」と労われて、彼女はこう答えます。
「まったく、みんなは私がどれだけ大変な思いをしたかしらないでしょ。もう、それはそれは本当に、本当に、本当に、本当〜に…楽しかった!」
回想が追いついて彼女の今と重なる鮮やかな締めくくり。最後にハートの手紙が少しだけクシャッとなる。これから先は仲間と紡ぐ物語なのでしょう。
『波よ聞いてくれ』
第12話「あなたに届けたい」
監督/南川達馬 シリーズ構成・脚本/米村正二 絵コンテ・演出/南川達馬 作画監督/岡崎洋美、粕川みゆき、神谷美也子、高橋あやこ、徳永竜志、冨吉幸希、久松沙紀、吉田雄一、吉山隆士
深夜ラジオの生放送中、最大震度6強の強い地震と北海道全域に及ぶ停電が発生。今まで定常運転だった現場の雰囲気は一変し、麻藤や久連木の指示が飛び交う災害対応モードに。麻藤から「そこにいて喋れる以上やるんだよ」と檄を飛ばされたミナレは腹を括り、自分の声を届け続ける。
現場の底力を目の当たりにし、その責任の一端をやり遂げることで、感化されることってあるよなあ。ミナレはラジオを生業にすることを決心し、瑞穂はディレクターデビューの夢をはっきりと口にします。地震は燻っていた決心を揺さぶり、街灯りが消えて今まで見えなかった星が輝く夜空は、見失いかけていた夢を思い出させたのかもしれない。洒落た最終話だったと思います。
『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』
第6話「笑顔のカタチ(">▽<")」
監督/河村智之 シリーズ構成/田中仁 脚本/ 絵コンテ/京極尚彦 演出/ほりうちゆうや、京極尚彦 作画監督/石川慎亮、加藤明日美、栗原裕明 総作画監督/横田拓己、冨岡寛、吉岡毅、渡邊敬介
感情や思いを表情に出すのが苦手な璃奈ちゃん。自ら望んだソロライブでしたが、ふとガラスに映り込んだ無表情な自分の姿を見て、練習から逃げ出してしまいます。心配して彼女の家を訪れた虹ヶ咲メンバーたち。カーテンを閉じた暗い部屋にはダンボール箱の中に閉じこもった璃奈ちゃんがいて…。
昔のアニメだったら、ダンボール箱を無理やり引っ剥がして、彼女の頬を引っ叩いていたかもしれないですね。それで気持ちが通じ合って、抱き合って涙みたいな。いやホント、そういうのが普通だったような気がします。
でも、このお話ではそうはならない。彼女はダンボールを被ったまま抱きしめられるんです。優しい世界です。みんなに励まされ、彼女はダンボールを被ったまま立ち上がってカーテンを開ける。そして、電光モニター付きヘッドセットを装着してソロライブを成功させるんです。
ちょっと考えてしまいました。私には優しすぎる世界に思えたけれど、もしかしたらこのお話を見て、元気をもらったり、勇気づけられたりする人がいるのかも。自分ではどうしようもないことだけど、周囲が受け入れてくれるなら。自分ではどうしようもなかったことが、テクノロジーで乗り越えられるなら。
この作品のターゲットは10代20代の若い世代でしょうか。彼らがそういう社会を強く望んで作り上げていこうと努力し続けたら、それは本当に実現するかもしれません。「笑顔のカタチ(">▽<")」には、そんなメッセージが秘められていたような気がしました…なんてね(^^)。
今年も本当にいいお話が多かったと思います。
それでは皆様よいお年をお迎えください。